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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)1040号 判決 1982年2月16日

甲事件原告・乙事件被告

株式会社田中修二商店

右代表者

田中修二

右訴訟代理人

畠山国重

小林浩平

甲事件被告・乙事件原告

清水木材株式会社

右代表者

清水良

右訴訟代理人

佐藤幸司

同(甲事件のみ)

岡野英雄

同(乙事件)、右佐藤幸司訴訟復代理人

(甲事件)

宮野皓次

甲事件原告補助参加人・乙事件被告

望月海運株式会社

右代表者

相川俊三

右訴訟代理人

太田常雄

齋藤治

同(甲事件のみ)

野本俊輔

主文

一  (甲事件)

甲事件原告株式会社田中修二商店の請求をいずれも棄却する。

二  (乙事件)

1  乙事件原告清水木材株式会社と同事件被告株式会社田中修二商店との間において、別紙目録記載の木材につき乙事件原告清水木材株式会社が所有権を有することを確認する。

2  乙事件被告望月海運株式会社は同事件原告清水木材株式会社に対し、別紙目録記載の木材を引き渡せ。

三  訴訟費用は、甲、乙両事件を通じて三分し、その二を乙事件被告株式会社田中修二商店の、その余を同事件被告望月海運株式会社の負担とする。

四  この判決は、第二項の2に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

(甲事件)

一  請求の趣旨

1 甲事件被告清水木材株式会社が同事件原告補助参加人望月海運株式会社に対する当庁昭和五一年(ヨ)第八三一八号有体動産仮処分決定に基づき、昭和五一年一二月一四日別紙目録記載の木材に対してなした執行はこれを許さない。

2 甲事件被告清水木材株式会社は同事件原告株式会社田中修二商店に対し、金二一三万四四八〇円及びこれに対する昭和五五年三月二七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3 訴訟費用は、甲事件被告清水木材株式会社の負担とする。

4 第1、2項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 主文第一項と同旨

2 訴訟費用は、甲事件原告田中修二商店の負担とする。

(乙事件)

一  請求の趣旨

1 主文第二項1、2と同旨

2 訴訟費用は乙事件被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

1 乙事件原告清水木材株式会社の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は乙事件原告清水木材株式会社の負担とする。

第二  当事者の主張

(甲事件)

一  請求の原因

1 甲事件被告、乙事件原告清水木材株式会社(以下甲、乙両事件を通じ、「被告清水木材」という。)は、甲事件原告補助参加人、乙事件被告望月海運株式会社(以下甲、乙両事件を通じ、「補助参加人」という。)を債務者として昭和五一年一二月一四日、当庁昭和五一年(ヨ)第八三一八号有体動産仮処分決定正本に基づいて、別紙目録記載の木材(以下「本件木材」という。)に対する補助参加人の占有を解いてこれを当庁執行官の保管に移す仮処分の執行をした。

2 本件木材はもと被告清水木材の所有であつたが、昭和五一年六月二二日、被告清水木材から訴外株式会社穂高木材工業(以下「穂高木材」という。)に、同年同月二四日、穂高木材から訴外株式会社加藤隆商店(以下「加藤商店」という。)に、同年七月一五日、加藤商店から訴外株式会社三木(以下「三木」という。)に、同年同月同日、三木から訴外株式会社江崎商店(以下「江崎商店」という。)に順次売買され、甲事件原告、乙事件被告株式会社田中修二商店(以下甲、乙両事件を通じ、「原告田中商店」という。)は、同年八月二日、江崎商店からこれを買い受けてその所有権を取得した。

3(一) ところが、被告清水木材は本件木材につき前記のように仮処分を申請し、その執行をしたもので、同仮処分の執行は、被告清水木材の故意又は過失に基づく違法なものである。即ち、本件木材については、被告清水木材から原告田中商店に至る前記順次売買の都度、各譲渡人から荷渡指図書が譲受人と保管者たる補助参加人に交付されており、被告清水木材は右事実を知りながらこれを故意又は過失により裁判所に申し出ることなく、また、輸入木材の売買を行う業者間における荷渡指図は、荷主たる寄託者が木材を第三者に譲渡し、当該譲受人に引き渡すよう指図するのが通常で、特別の事情のない限り、被指図人は受寄者に対し木材の引渡請求権を有し、受寄者はこれに応ずる義務を負うものであるところから、補助参加人が被告清水木材に対し昭和五一年一一月二二日付書面をもつて、現在原告田中商店が荷主となつているので、遡つて各店社の荷渡指図書が無効中止とならなければ引渡すことができない旨指摘したのにかかわらず、これを故意に無視又は過失により看過して、同年一二月一〇日、前記仮処分申請をしてその決定を取得したうえ、その執行に及んだものである。

(二) 仮に、被告清水木材が本件木材の引渡し訴訟で勝訴しながら右木材を取得できなかつたとしても、その損害は金銭賠償で填補されうるものであるところ、原告田中商店はその本社所在地に隣接して時価三億円以上の土地を所有していたのであるから、被告が仮処分に及ぶ必要性はなかつたのみならず、仮処分により執行官に保管させながら善管注意義務に違背して本件木材を腐蝕させてしまつた。

(三) 原告田中商店は、被告清水木材の違法な右仮処分の申請及び執行により、金二一三万四四三〇円の損害を被つた。即ち、本件木材は、右仮処分決定に基づく執行官保管中の昭和五五年三月二六日、金三五〇万円で換価処分されたが、右処分価格は本件木材の売買価格金五六三万四四八〇円を大幅に下回つており、右価格の下落は原告田中商店が被告清水木材の違法な仮処分の申請及び執行により、本件木材の管理及び時宜に適つた処分を不可能にさせられ、また被告清水木材が前記のように、善管注意義務に違背して木材を腐蝕させたために生じたもので、右価格の差金二一三万四四三〇円が原告田中商店の被つた損害となる。

よつて、原告田中商店は被告清水木材に対し、所有権に基づき、本件木材に対する仮処分命令に基づく執行の不許を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償請求として、金二一三万四四八〇円及びこれに対する不法行為の後である昭和五五年三月二七日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求の原因に対する被告清水木材の認否

1 請求の原因1の事実は認める。

2 請求の原因2の事実のうち、本件木材がもと被告清水木材の所有であつたこと及び被告清水木材が本件木材を昭和五一年六月二二日穂高木材に売り渡したことは認めるが、その余の事実は否認する。

3 請求の原因3の(一)ないし(三)の主張はすべて争う。

三  抗弁

仮に、請求の原因2の事実がすべて認められるとしても、

1 被告清水木材と穂高木材は、昭和五一年四月五日、木材・製材その他被告清水木材の販売する商品に関し、商品売買基本契約を締結したが、右基本契約には左の一に該当する事実が発生したとき、被告清水木材は催告及び自己の債務の履行の提供をしないで、直ちに右基本契約及びこれに基づく個別売買契約を解除できる旨の特約が附されていた。

(一) 穂高木材が被告清水木材に対する個別売買契約上の売買代金、支払債務その他一切の債務につき支払義務を怠つたとき

(二) 穂高木材が自ら振出し、若しくは引受けた手形又は小切手につき不渡とする等支払停止の状態に至つたとき

(三) 穂高木材の財産状態が悪化し、又はその虞れがあると認められるとき

2 被告清水木材は穂高木材に対し、右基本契約に基づき、昭和五一年六月二二日本件木材を穂高木材に売り渡したが、被告清水木材としてはそれ以前に穂高木材が不渡手形を出していたためその代金支払能力に不安を抱いていたところ、昭和五一年六月二五日ころ、補助参加人から新たに穂高木材の財産状態悪化を知らせる情報を得たので、右1(三)の特約に基づいて、同月二六日ころ、穂高木材に対して本件木材を返還するよう口頭で申し入れ、もつて右売買契約を解除した。

3 仮に、右解除が認められないとしても、更にその後穂高木材から裏書を受けた手形が殆んど不渡となつたため、被告清水木材は、右1(一)、(二)の特約に基づいて、昭和五一年一一月九日、穂高木材に対し、右基本契約及び本件木材に関する個別売買契約を解除する旨の意思表示をした。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1の事実は知らない。

2 抗弁2の事実のうち、被告清水木材が穂高木材に対し、昭和五一年六月二六日ころ、本件木材の売買契約を解除したことは争い、その余の事実は知らない。

3 抗弁3の事実のうち、被告清水木材が穂高木材に対し、昭和五一年一一月九日、各契約解除の意思表示をしたことは否認し、その余の事実は知らない。

五  再抗弁

仮に被告清水木材主張の契約解除の抗弁が認められるとしても、

1 原告田中商店は、昭和五一年八月上旬、自己を被指図人とする江崎商店発行、補助参加人宛の荷渡指図書を、本件木材の保管者である補助参加人に呈示して本件木材の引渡を受け、本件木材に対する現実の占有を取得したうえ、新たにこれを補助参加人に寄託して同年九月一日以降の保管料を支払つている。

2 仮に、右事実が認められないとしても、被告清水木材は、本件木材を輸入し、その通関手続を補助参加人に委託するとともに、引き続き補助参加人と寄託契約を締結してこれを保管させていたが、昭和五一年六月二二日、これを穂高木材に売却する際、発行者被告清水木材、名宛人補助参加人、被指図人穂高木材とする荷渡指図書を正副二通作成し、正を補助参加人に副を穂高木材に交付しており、その後、本件木材が穂高木材から原告田中商店まで順次売買された際も、右同様各売買の都度、譲渡人は荷渡指図書を正副二通作成してうち正を補助参加人に、副を各譲受人に交付している。しかして本件のように木材業者間において荷渡指図書が発行されるのは、売買等によつて物品が譲渡される場合であり、右の場合特別の事情がない限り、被指図人は受寄者に対して物品の引渡請求権を取得する。そして、本件各荷渡指図書には、被告清水木材発行のものを除いて、保管料の負担者、負担期間が特定明記されており、被告清水木材発行のものについてもこれと穂高木材発行の荷渡指図書の記載と合わせると、被告清水木材発行の荷渡指図書が補助参加人に到達した後は、穂高木材が昭和五一年七月末日まで保管料を負担することが明確であつて、補助参加人はこれら荷渡指図書に基づいて、各保管料負担者に保管料を請求しており、また、補助参加人は、荷渡指図書到達後、発行者から物品引渡要求があつても、被指図人の同意がない限りこれに応じないものである。かような事実関係からするならば、荷渡指図書は単なる免責証券ではなく、本件木材の各譲渡人は、それぞれ補助参加人に対し、荷渡指図書によつて爾後各譲受人のために本件木材を占有すべき旨を指図し、各譲受人は補助参加人に対し、本件木材を補助参加人が各譲受人のため占有することを承諾したものであるというべきであるから、本件木材の順次売買の都度、民法一八四条所定の指図による占有移転がなされており、従つて、本件木材の最終譲受人である原告田中商店は、江崎商店からこれを買い受けた昭和五一年八月二日ころ、又は、遅くとも同年九月一日には、その占有を取得したものというべきである。そうすると、仮に被告清水木材が同年六月二六日ころ、穂高木材に対する本件木材の売買契約を解除したとしても、原告田中商店は解除後の転得者であり、しかも右占有取得により対抗要件を具備したから、本件木材の所有権取得を被告清水木材に対抗しうるものであり、また、被告清水木材が同年一一月九日、右売買契約等を解除したとしても、原告田中商店は右解除前に本件木材を転得し、しかも対抗要件である占有を取得した「第三者」(民法五四五条一項但書)であるから、被告清水木材はその解除の効果を原告田中商店に対抗することができない。

六  再抗弁に対する被告清水木材の認否及び主張

1 再抗弁1の事実のうち、原告田中商店が昭和五一年九月分の保管料を支払つたことは認めるが、その余の事実は否認する。

2 再抗弁2のうち、本件木材について、各譲渡人名義の荷渡指図書が、順次補助参加人に送付されたことは認めるが、原告田中商店が本件木材の占有を取得したとの主張は争う。寄託者が発行した荷渡指図書は、受寄者である倉庫業者に対し、寄託物を証券所持人に引き渡すよう委託したもので、倉庫業者は証券所持人に寄託物を引き渡せば、寄託者に対し引渡の結果について免責されるという一種の免責証券にすぎず、受寄者による荷渡指図書への副署か、寄託物の現実の引渡がない限り、寄託物の占有権は荷渡指図書上の被指図人に移転しないし、また、寄託物引渡請求権も移転しない。原告田中商店は、補助参加人から原告田中商店らに保管料請求があつたことを一つの根拠として、本件木材について原告田中商店への占有権の帰属を主張するが、保管料の請求があつたからといつて占有権の帰属に変動が生ずるはずがない。また、原告田中商店は、本件における荷渡指図書は通常の荷渡指図書と異なり、債権的ないし物権的効力を有すると主張するようであるが、かような商慣習が成立しているならともかく、原告田中商店主張の事実関係のみで本件木材の引渡があつたと同視できない。

七  再々抗弁

荷渡指図書が第三者に交付された後であつても受寄者による引受又は荷渡指図書の所持人に対する寄託物の引渡がない限り、荷渡指図書の発行者である寄託者は荷渡指図書の受寄者に対する呈示の前後を問わず、指図を取り消しうるものと解すべきであるから、仮に原告田中商店主張のように原告田中商店が補助参加人に対し、昭和五一年八月上旬、荷渡指図書を呈示して本件木材の引渡を受けたとしても、被告清水木材は補助参加人に対し、同年六月二五日ころ、本件木材の引渡にあたつては被告清水木材の了解を得ること及び穂高木材又はその代理人が来ても引き渡しては困る旨指示し、補助参加人はこれを承諾したから、この時点で被告清水木材の補助参加人に対する本件木材の荷渡指図は取り消されたというべきである。

仮に右事実が認められないとしても、被告清水木材は補助参加人に対し、同年一一月九日、右荷渡指図を取り消す旨の意思表示をした。

八  再々抗弁に対する原告田中商店の認否

被告清水木材が補助参加人に対し、昭和五一年六月二五日ころ又は同年一一月九日、荷渡指図を取り消したことは否認し、その余の主張は争う。荷渡指図の取消が可能なのは、自己の発行した荷渡指図書が有効な期間、即ち、寄託物譲受人が第三者に転売するまでの間に限られるものである。

(乙事件)

一  請求の原因

1 本件木材はもと被告清水木材の所有であつた。

2(一) 被告清水木材は穂高木材に対し、昭和五一年六月二二日、本件木材を売り渡した。

(二) 甲事件抗弁1ないし3において主張するとおり、被告清水木材は、同年同月二六日ころ、仮にそうでないとしても同年一一月九日、穂高木材との間の右売買契約を解除した。

3 補助参加人は、本件木材を占有している。

4 また原告田中商店は、甲事件を提訴して本件木材の所有権を有する旨主張する。

よつて、被告清水木材は、補助参加人に対し、所有権に基づき本件木材の引渡を、原告田中商店に対し、被告清水木材が本件木材の所有権を有することの確認をそれぞれ求める。

二  請求の原因に対する認否

(補助参加人)

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2(一)、(二)の事実はすべて知らない。

3  同3の事実は認める。

(原告田中商店)

1  請求の原因1の事実は認める。

2  同2の事実のうち、(一)は認める。(二)のうち、被告清水木材が穂高木材に対し、主張のように売買契約を解除する旨の意思表示をしたことは否認し、その余の事実は知らない。

3  同4の事実は認める。

三 抗弁(原告田中商店)

1  仮に、被告清水木材が穂高木材との売買契約を昭和五一年六月二六日ころ解除したとしても、原告田中商店は、甲事件請求の原因2及び再抗弁において主張するとおり穂高木材、加藤商店、三木、江崎商店を経由して、売買契約解除の同年八月二日、本件木材を買受け、かつその占有を取得した。

2  仮に、被告清水木材が穂高木材との売買契約を同年一一月九日に解除したとしても、甲事件請求の原因2及び再抗弁において主張するとおり、原告田中商店は被告清水木材の売買契約解除前に本件木材を買受け、かつ、その占有も取得した。

四 抗弁に対する認否

抗弁のうち、原告田中商店が本件木材を買受けたことは否認し、その占有を取得したことは争う。原告田中商店が占有を取得していないことは甲事件の再抗弁に対する認否及び主張における主張のとおりである。

五 再抗弁(被告清水木材)

仮に、原告田中商店が本件木材を買受け、荷渡指図書による占有移転を受けたとしても、被告清水木材は穂高木材に対し、昭和五一年六月二六日ころ、仮にそうでないとしても同年一一月九日、荷渡指図を取り消した。

六 再抗弁に対する認否

再抗弁はすべて争う。本件荷渡指図書が占有移転の効力がないことは甲事件の再抗弁に対する認否及び主張における主張のとおりである。

第三  証拠<省略>

理由

第一甲事件について

一被告清水木材が補助参加人を債務者として当庁昭和五一年(ヨ)第八三一八号有体動産仮処分決定正本に基づいて、昭和五一年一二月一四日、本件木材について執行官保管の仮処分執行をしたことは当事者間に争いがない。

二原告田中商店は本件木材は同原告の所有である旨主張するので、その点について判断する。本件木材がもと被告清水木材の所有であつたこと、被告清水木材が昭和五一年六月二二日これを穂高木材に売り渡したことは当事者間に争いがない。

そして、<証拠>によると、本件木材は被告清水木材から穂高木材に売り渡された後、穂高木材から加藤商店に、加藤商店から三木に、三木から江崎商店にと順次転売され、更に昭和五一年八月二日、江崎商店から原告田中商店に代金五〇〇万円で売渡されるとともに、同年六月二四日付で穂高木材から加藤商店に、同年七月一五日付で加藤商店から三木に、同日付で三木から江崎商店に、同年八月二日付で江崎商店から原告田中商店に、それぞれ本件木材を引き渡すことを依頼する旨記載したいずれも本件木材を保管していた補助参加人宛の荷渡指図書(乙第四号証の一ないし五)が発行されたことが認められる。<証拠>によると、本件木材に関し、右各荷渡指図書の他に昭和五一年八月六日付で定木商店から原告田中商店に対する荷渡指図書の発行されていることが認められるが、証人田中修の証言によれば、定木商店は、江崎商店・原告田中商店間の売買の仲介者にすぎず、右荷渡指図書は誤つて発行されたものであることが認められるから、右荷渡指図書の存在も前記認定の妨げとはならず、他に以上の認定を左右する証拠はない。

三そこで、抗弁事実について判断する。

<証拠>によれば、被告清水木材と穂高木材との間には、昭和五一年四月五日付で木材その他の商品の売買に関する基本契約が締結され、本件木材の売買もその一環として行れたものであるが、右基本契約中には、穂高木材が振出し、若しくは引受けた手形又は小切手につき、不渡処分を受ける等支払停止の状態に至つたとき、もしくは穂高木材の財産状態が悪化し、又はそのおそれがあると認められる事実があつたと認められるときは、被告清水木材において、催告及び自己の債務の履行の提供をしないで、直ちに基本契約及び個別売買契約を解除できる旨の約定があつたこと、右両者間には、右基本契約締結後本件木材の売買までの間に前後三回にわたつて木材の取引が行なわれたが、右取引に関し穂高木材が右代金支払のため振出もしくは裏書譲渡した手形が不渡となつて、再三手形の差し替えが行れたうえ、本件木材の売買代金支払のため交付された手形のうち、一通が同年一〇月三〇日不渡となつたため、被告清水木材として、同年一一月九日ころ右基本契約の約定に基づき穂高木材に対して電話で本件木材の売買契約を解除する旨の意思表示をしたことが認められ、他に右認定を左右しうる証拠はない。なお、被告清水木材は、昭和五一年六月二六日ころ右売買契約を解除した旨主張し、証人清水格の証言(第一回)中に右の趣旨に沿う部分がないではないが、同部分は<証拠>に照らして措信することができ<ない。>

四次に、再抗弁事実について判断する。

原告田中商店は、まず、昭和五一年八月上旬、江崎商店発行の荷渡指図書を補助参加人に呈示して、本件木材の現実の引渡を受け、新たに補助参加人にこれを寄託した旨主張するが、本件全証拠を検討してもこれを認めるに足る証拠はない。

次に、原告田中商店は、本件木材の一連の売買の際、各譲渡人から補助参加人宛に各譲受人に対し本件木材の引渡を依頼する荷渡指図書が正副二通発行され、これらが譲受人と補助参加人に各一通ずつ交付されるとともに、他方、補助参加人は、右各荷渡指図書記載の保管料負担者に保管料を請求しており、かかる事実関係のもとにおいては、右各荷渡指図書の発行交付に伴つて、本件木材について各譲渡人から各譲受人に順次指図による占有移転がなされているものとみるべきであるから原告田中商店が江崎商店から買い受けた昭和五一年八月二日ころ、遅くとも同年九月一日には占有を取得したものというべきであると主張する。

本件木材の一連の売買に関してその都度各譲渡人から荷渡指図書が発行されたことは前記認定のとおりである。

ところで、本件のような荷渡指図書は、そもそも成文法規で定められたものではないから、その法律関係は商慣習法ないし商慣習によつて決定されるべきものであるところ、<証拠>を総合すると、輸入木材の売買においては一般に譲渡人がその都度新たに受寄者の副署等を経ることなく荷渡指図書を発行するが、右の場合正副二通を発行し、正副それぞれを譲受人(荷渡先)、受寄者に交付する場合と正のみを発行して譲受人に交付する場合とがあり、譲受人が受寄者から寄託物を受領する際には、裏判の押捺された正の荷渡指図書のほかに同裏判と同一の印の押捺された引取書を持参することが必要で、一旦荷渡指図書が受寄者に交付された後荷渡指図を取消す場合も、現在では荷渡先の裏判の押捺が必要とされているが、以前は口頭によることも可能であつたこと、本件では各譲渡人においていずれも荷渡指図書の正のみを発行し、副は発行しておらず、右正の荷渡指図書はいずれも各譲受人において裏面に自己の印章を押捺したうえ補助参加人のもとに送付してきたが、そのうち加藤商店、三木及び江崎商店発行の各荷渡指図書には、本書をもつて倉庫寄託約款を承諾のうえ寄託申込書といたします旨、荷渡先のためではなく、むしろ自己のための保管を依頼するものと解せざるを得ない記載のあること、更に本件各荷渡指図書には保管料負担についての記載箇所があるが、被告清水木材としては、穂高木材が引渡を受けるまでの間自らが保管料を負担する意思であつたため、同箇所に何等記入しないまま荷渡指図書を発行しており、またその余の荷渡指図書にはいずれも保管料の負担者及び負担期間が特定明記されていたが、補助参加人は必ずしもこれに従うことなく、現に昭和五一年六月から同年一二月までの保管料を請求していることが、それぞれ認められ、他に右認定を左右する証拠はない。

そして、右認定の事実に基づいて考察するならば、本件荷渡指図書は法に定める倉庫証券等と異なり、もともと裏書等による流通を全く予定しておらず、右指図書なるものは受寄者に対し寄託者の計算で寄託物の引渡しをなし得る権限を付与するとともに、荷渡先に対しては引渡を受け得る権限を付与する書面上の指図であつて、荷渡先としては右指図書に受寄者の副署がない限り、受寄物の受領権限は有するものの、受寄者に対しその引渡請求権は有せず、受寄者としても荷渡先に対し受寄物の引渡義務を負担せず、荷渡先に対して引き渡せば寄託者に対する関係で免責される結果となるにすぎないものと解さざるを得ない。

そうだとするならば、本件荷渡指図書の交付をもつて直ちに寄託物の引渡しがあつたものとみることはできないし、また、右交付に受寄者に対し譲受人に対する占有移転を指図する効力があると解することもできないものというべきである。

五そうだとするならば、原告田中商店は、民法五四五条一項但書にいう「第三者」に当たらず、被告清水商店のなした契約解除によつて本件木材の所有権が遡及的に同被告に復帰したことを認めざるを得ないものというべきである。従つて、被告清水木材が本件木材の所有権に基づく物上請求権を被保全権利としてなした前記仮処分申請及びその執行は、適法なもので、原告田中商店の権利を何等侵害するものではない。

原告田中商店は、右仮処分当時原告田中商店が相当資産を有していたから保全の必要性がなかつたと主張するが、右仮処分は補助参加人を債務者とするもので、右仮処分の必要性を判断する上で原告田中商店の資産の有無は考慮すべきではないから、原告田中商店の右主張は失当であり、他に右仮処分の必要性の不存在を窺わせる事情を認めうる証拠はない。

よつて、原告田中商店の甲事件の請求はその余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。

第二乙事件について

一本件木材がもと被告清水木材の所有であつたこと、補助参加人が本件木材を占有していることはいずれも全当事者間に争いがなく、被告清水木材が穂高木材に対し、昭和五一年六月二二日、本件木材を売り渡した(この事実は、被告清水木材と原告田中商店との間で争いがない。)が、同年一一月九日ころ、右売買契約を適法に解除したことは前記甲事件の判断二、三において説示したとおりである(なお、右二において掲記した証拠中乙第四号証の五、六の原本の存在及び成立につき被告望月海運の関係では、弁論の全趣旨によりこれを認める。)。

二そして、原告田中商店が被告清水木材の右契約解除前に、穂高木材、加藤商店、三木を経由して江崎商店から本件木材を買い受けたが、いまだその占有を取得して対抗要件を具備していないため、被告清水木材に対して本件木材の所有権を主張し得ないことは前記甲事件の四において説示したとおりである。よつて、原告田中商店の右抗弁は理由がない。

三従つて、本件木材は被告清水木材の所有であり、同被告は補助参加人に対し、所右権に基づいて本件木材の引渡を請求できるものというべきである。

第三結論

以上の次第で、甲事件の原告田中商店の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却し、乙事件の被告清水木材の請求は、いずれも理由があるからこれを認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判断する。

(小川昭二郎 山下満 佐藤明)

目録<省略>

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